東京高等裁判所 昭和47年(う)2788号 判決
被告人 長島藤吉
〔抄 録〕
記録および原判決書につき調査するに、検察官は、被告人に対する昭和四六年四月八日付起訴状で、公訴事実第三の一として「被告人は前記日時場所―昭和四六年一月一日午前一一時二五分ころ裾野市佐野七九一番地付近道路上―において、普通乗用自動車を運転中、山本直己に傷害を負わせたのに、直ちに同人の救護等法律の定める必要な措置を講じないでその場から逃走したものである。」という訴因を掲記し、これを道路交通法違反の罪に当るとして、その適用すべき罰条に同法七二条一項前段、一一七条を摘示して審判の請求をしている。ところが原判決が罪となるべき事実として掲げる第一の一、二第二の一、二の四つの事実には、右公訴事実は含まれていないことは、所論のとおりである。しかし原判決はその法令の適用において「判示第二の三の所為は道路交通法七二条一項前段、一一七条にあたるので、―中略―所定刑中懲役刑を選択し」右第一の一、二および第二の一、二の罪と併合罪として処断する趣旨を判示している。また原判決が証拠の標目欄に判示第二の各事実認定の証拠として掲示している被告人の検察官に対する昭和四六年三月三〇日付並びに司法警察員に対する同年一月七日付各供述調書、山本直己の司法巡査に対する供述調書、堀江光芳と中西基裕の司法巡査に対する各供述調書、司法巡査大塚綾次外一名作成のひき逃げ交通事故捜査報告書、および司法警察員木村智英外一名作成の実況見分調書二通によれば、前示の救護義務違反の訴因は優に認定される。これらの点から考えると、原判決は検察官から審判の請求のあった前示の救護義務違反の訴因について判決をしなかったのではなく、むしろこれを有罪と認定処断したのであるけれども、その認定した犯罪事実を、罪となるべき事実の第二の三に事実上の理由として表示することを遺漏したものと認めるのが相当である。そういうわけで、原判決は所論のように審判の請求を受けた事件について判決をしない違法があるということはできず、論旨は理由がない。しかし、原判決には刑訴法三三五条一項によって要求される判決の理由を付さない違法があることになる。
(三井 石崎 杉山忠)